真奈美さんは忙しそうに大勢の客の中を歩き回りながら、顔見知りの人や紹介された人への挨拶しています。
私はテーブルに並べられた料理を食べながら、周りの人達を眺めていました。
生命保険のセールスのために、こんなに盛大なパーティーをするんだ…
それまで過ごした学生生活の中とは違う世界… 大人の世界を感じたのです。
「今日はお越しくださってありがとうございます」
40才位の女性が、退屈そうにしている私に声をかけました。
名刺を交換し挨拶すると、彼女は私の会社名に目を留めました。
「たしか担当は水沢ですよね。私も水沢と同じ支社なんです。今、呼んできますね」
「あ…、いえ… お忙しそうなんで結構ですから…」
「ちょっと待ってて下さいね」
私が止めるのも聞かず、彼女は人混みの中に彼女を探しに行きました。
今思えばこのパーティー自体、生命保険会社が「加入候補者」とのコネクションを作ることが目的なのです。この場にいる外交員…セールスレディはホステスなどではありません。
一人でも多くの契約を取るために、顔見知り以上の印象付けをしなくてはならないのです。
まして、私のような新卒社員は、まだ何処の保険会社とも契約していない絶好のターゲットなのです。
「料理、食べてくれてますか」
暫くして真奈美さんが私の所に再び来てくれました。
「大勢の人が来ているから大変ですよね。私のことは気にしないでいいですよ。さっきの人にもそう言ったのに…」
私は真奈美さんが来てくれた嬉しさを、別の言葉で隠しました。
「何人くらい来るか心配してたんですよ。予定通りで安心しました」
彼女は笑みを浮かべて周りを見渡します。
「川島さんは、どちらに住んでいるんですか?」
「中央線の中野です。水沢さんは?」
「梅ヶ丘なんです、小田急線の。川島さんと同じ新宿経由ですね。」
せっかく彼女が会話を繋げる接点を見つけてくれたのに、私は満足な受け答えも出来ずに、当たり障りのない返事をしてしまったのです。
ほんの僅かな時間で、真奈美さんはまた、他の人に呼ばれて行きました。
結局、その日はそれ以上、彼女と話をする事は出来ませんでした。
楽しみにしたパーティーも、私にとってはその後の時間が長く感じられる退屈なものだったのです。
彼女に何を期待してたんだろ…
真奈美さんにとっては仕事の延長なのに…
その夜はパーティーが終わった後、先輩の社員数人と二次会に行き、深夜を過ぎる頃の時間に自分のワンルームマンションの部屋に帰ったのです。
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