金曜日の夜、私は真奈美さんと約束した下北沢の待ち合わせ場所に向かいました。
彼女が何回か行ったジャズ喫茶が落ち着いた雰囲気で、生命保険のプランを説明するのにちょうどいいからとのことでした。
私は真奈美さんと会う前から、何度も彼女との交換条件… 保険の契約をする代わりに、彼女が一度限りの性行為を受け入れることの「提案」を切り出す筋書きを、想いの中で繰り返していたのです。
駅から数分の場所にあるジャズ喫茶は、週末ながら客の数も少なく、抑えた音のジャズが静な空間に流れています。
私は店の中を見渡して真奈美さんを探しました。
彼女は奥まった隅のテーブルから私に手で合図をしています。
「ここの店の場所、すぐに判りましたか?」
笑顔で話しかける彼女の表情が、卑怯な企みを胸に抱く私の罪悪感を駆り立てます。
「ちょっと迷ったけど、すぐに見つけましたよ。元々、下北沢は道が判りにくいですから」
「ですよね。私もよく迷子になります」
小さなテーブルを間に挟み、真奈美さんの近くで向き合うことに後ろめたさが込み上げました。
そんなこと構うな…
契約の交換条件を出すだけじゃないか…
息苦しさから逃れるように、私はテーブルの上に出されたグラスの水を飲み込んだのです。
「じゃあ… 早速、保険について説明しますね。あ… その前に飲み物の注文がまだですよね」
真奈美さんが手渡してくれたメニューの中から彼女のお薦めを選びます。
いつの間にか、彼女が用意したペースに乗せられていることに少し焦りを感じました。今夜、私には大切なシナリオがあるのです。
落ち着くんだ…
最後に主導権を握ればいいんだ…
もう何時間か後には、彼女の着衣の下に隠された肌の全てを想いのままに出来る筈なのです。
真奈美さんは鞄から取り出したパンフレットと資料をテーブルの上に置いて、生命保険の説明を始めました。
自慰の夢想の中で、幾度も私の精の迸りを受けた真奈美さんの姿が、目の前に実在する彼女自身と重なり合います。
私は胸の高鳴りを押し殺しながら、今夜の筋書きを切り出すタイミングを伺っていたのです。
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