<前ページより>
ホテルの場所は貴子さんが知っているので、彼女と私は沢田さん達とは別の道を遠回りしました。
私は彼女と、車の少ない細い通りを並んで歩きました。
話したいことはたくさんあるのに、言葉に出来ずに黙り込んでしまったのです。
「由香里さんてお綺麗で可愛い方ですね。川島さんの気持ちが判ります」
貴子さんが年下の私をからかうような口調で話しかけました。
「貴子さんは…」
言いかけの言葉が途中で途切れてしまいました。突然、彼女と二人きりになったことへの緊張からか、鼓動が高鳴りはじめたのです。
「貴子って呼んでいいですよ。今は川島さんの妻ですからね」
街灯に照らされた彼女の表情は、貴婦人のような落ち着きと気品の中に、危うさを押し隠した妖艶な雰囲気を漂わせます。一瞬、息が止まりそうになりました。
彼女は私の隙を弄ぶつもりなのか、急に耳元に唇を近づけ小声で囁きます。
「それとも… 早くホテルに行きたいのかな…」
貴子さんは私の表情を確かめると、小悪魔のような笑みを浮かべたのです。
まるで、性交の経験がない少年の欲望に火を付けるかのように…
彼女は路地の脇にある駐車場の前で立ち止まると、私の手を引いて奥の暗がりへと目線で誘います。静寂の中に夜の都会のざわめきが遠くから聞こえるような、死角に囲まれた人目に付かない場所でした。
私は思わず、その暗い中で貴子さんを夢中で抱きしめたのです。背中に手を回し、立ったまま体を密着させながら、彼女の唇に自分の唇を重ねました。
由香里とは違う唇の感触… 微かなルージュの味… 手のひらから伝わる体の線…
一夜妻である彼女の胸元からは、一夜であるが故の欲望を誘いだす甘い人妻の香りが漂います。
「た… 貴子さん… 」
私は夢中で彼女の舌に自分の舌を絡めました。他人の気配に注意をすることも忘れ、彼女が差し出したきっかけに他愛もなくはまり込んでしまったのです。
貴子さんは私から唇を離すと、指先をスラックスのファスナーにかけました。
「ここはもう… 固くなっているの… かな…」
その言葉は、つい先程まで四人でいた時には、その気配すら見せなかった性の悪戯に満ちたものでした。男の本能を知り尽くした焦らしの笑みは、私の中に僅かに残った理性を瞬く間に打ち崩したのです。
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